映画『HOKUSAI』では、葛飾北斎が写楽に比べて足りなかったものがあったので、その足りない部分や、江戸期の浮世絵の傑作などを紹介しましょう。
- 映画『HOKUSAI』のキャスト
- 映画『HOKUSAI』のストーリー
- 『葛飾北斎が写楽に比べて足りなかったもの』
- 『浮世絵の名作』
- 映画『HOKUSAI』と他の作品を比較
- 映画『HOKUSAI』のまとめ
映画『HOKUSAI』のキャスト
映画『HOKUSAI』は、2021年5月28日に上映されました。
監督&脚本&原作
女優&男優
- 葛飾北斎-少年期(演:城桧吏)浜辺で夢中に絵を描く少年
- 葛飾北斎-青年期(演:柳楽優)歌麿や写楽に喧嘩腰になってしまう絵師
- 葛飾北斎-老齢期(演:田中泯)絵で世の中が変わるのか自問自答する絵師
- 喜多川歌麿(演:玉木宏)江戸に名を馳せる浮世絵師
- 東洲斎写楽(演:浦上晟周)蔦屋重三郎に惚れ込まれた絵師
- 蔦屋重三郎(演:阿部寛)多くの絵師を世に見出す人物
- コト(演:瀧本美織)葛飾北斎の妻
- 高井鴻山(演:青木崇高)儒学者であり、葛飾北斎を尊敬する人物
- 柳亭種彦(演:永山瑛太)町民文化の締め付けを苦々しく思う武士
映画『HOKUSAI』のストーリー
蔦屋重三郎は、喜多川歌麿を遊楽に住まわせて、好きなだけ絵を描かせていました。そんな時に、勝川春朗(後の葛飾北斎)の存在を知って、彼を歌麿に引き合わる事にします。
しかし、歌麿から「お前の描く絵には色気がねぇんだ」と罵倒されてしまい、勝川春朗は対抗意識を燃やしますが、蔦屋重三郎から「お前は何のために絵を描いているんだ?勝ち負けだけで描いているのか。だったら、絵師なんて辞めちまえ!」。
悔しい日々を送る勝川春朗は、再び蔦屋重三郎の店をふらりと入っていったら、そこには衝撃的な絵が並んでいました。それは、後に世界で大きな支持を集める事になる写楽の絵でした。
大きさが合っていないうえに、現実とかけはなれた顔ばかりの絵だったので、勝川春朗は写楽に「ふざけてんのか」と目を見開き、胸ぐらをつかんでしまうのです。
しかし、勝川春朗はようやく絵師にとって必要なものを見つけ出して、自分の好きなものを描こうと考えて、海の荒ぶる波を描いていきます。
蔦屋重三郎は、その波の絵を見て「ようやく、お前。化けたな」と頬を緩めますが、病魔にむしばまれていて、ついに命を落としてしまいます。
しかも、歌麿は役人たちの締め付けにあい捕縛されてしまい、葛飾北斎は「人に喜ばれる絵を描く事がそんなに悪いか」と憤慨してしまうのです。それでも、葛飾北斎は絵を描き続けますが、その作品は不条理な世の中を変えられるのでしょうか?
『葛飾北斎が写楽に比べて足りなかったもの』
若い頃の葛飾北斎は『絵師なら、身分に関係なくテッペンを目指せる。だから絵を描くんだ」と言い放ってしまいます。
つまりは、出世のために絵を描いているので、ついつい歌麿に対抗した絵を描いてしまう訳ですが、それは彼が本当に描きたいものではありませんでした。
それに比べて、写楽は自分が描きたいと思うものだけを描いていて、それは出世のためではなく、道楽のようなものでした。
出世のために描く絵と、好きなものだけを描く絵では、人々に与える感動に差が出てしまうのは当たり前です。
やがて、葛飾北斎は自分が写楽より足りないものが何か?それがようやく分かり、自分が描きたいと思う波の絵を描くようになり、絵師として栄光の道を歩む事になります。
『浮世絵の名作』
江戸期には、葛飾北斎・歌麿・写楽などの名作が次々に誕生しました。そこで、どのような名作があったのか紹介します。
喜多川歌麿『襟おしろい』
歌麿が、若き日の葛飾北斎の目の前で描き続けたのが、遊女に鏡を持たせて描いた『襟おしろい』です。江戸時代においては、女性に鏡を持たせて描くとは、画期的な描き方であり、歌麿の天才さが分かる作品ですね。
東洲斎写楽『三世大谷鬼次の江戸兵衛』
写楽が描く絵は、独創的なものがあり、歌麿から「お前さんの描く絵は、なんでみんな、ひょっとこみたいな絵ばかりなんだ。お前さんには、そういう風に見えんのかい?」と言われてしまいます。
しかし、写楽は見たままを描くのではなく、相手の内側を描いているのであり、このような顔に見えてしまう訳なんですね。
写楽の作品の中でも、私個人が特に好きなのが『三世大谷鬼次の江戸兵衛』ですね。
西洋画のような奥行きはないのですが、線と色だけでここまで圧倒的な絵が描けるのかと思うと、現代でも圧倒されるほどの作品です。
写楽はわずか10ヶ月で140点以上の浮世絵を描きましたが、当時の町民にはあまり受け入れられず、姿を消してしまいました(今作のHOKUSAIでは、写楽の没落ぶりは出てきません)。
葛飾北斎『神奈川沖浪裏』
葛飾北斎の代表作『神奈川沖浪裏』では、彼がたどり着いた『描きたいと思ったものを描いた』絵であり、それが写楽や歌麿に劣らない作品となりました。
この濃い青や藍色こそ、葛飾北斎の誇るべき世界観であり、これぞニッポンという感じがしますね。
葛飾北斎『生首の図』
葛飾北斎には、良き理解者だった柳亭種彦(演:永山瑛太)がいました。柳亭種彦は武士でありながら、同じ武士たちが町民文化を締め上げる事に憤慨していたのです。
そのため、武士でありながら、葛飾北斎と一緒に作品を作り上げようとしていましたが、ついには幕府に睨まれて斬り捨てられてしまいます。
葛飾北斎は、柳亭種彦の死を嘆き悲しみ、この『生首の図』を描いてしまうのです。
今作のHOKUSAIでは、何度も周りの者たちから「こんな時に絵を描くのか」と言われますが、そのたびに「こんな時だから、絵を描くんだ」と吐き捨てていました。
恐らく、生首の図を描いていた時も、その時の義憤があればこそ、筆を動かせたのでしょう。
映画『HOKUSAI』と他の作品を比較
日本に代表的な絵師 葛飾北斎の映画があるように、イギリスには代表的な画家ターナーを描いた『ターナー、光に愛を求めて』があります。
ターナーは、多くの風景画を描いており、気温・湿度・時間などの違いを絵画で見事に描き分けた巨匠です。
映画『HOKUSAI』と通じるものがあり、映画が好きな方だけではなく、絵画やイラストが好きな方にも、オススメの映画ですね。
映画『HOKUSAI』のまとめ
去年から、HOKUSAIが始まるのを首を長くして待っていましたが、予想以上に豪華な絵師たちが登場して、息を飲むほどの傑作でした!
特に、歌麿・写楽・葛飾北斎たちが結集する場面は『なんて、豪華な瞬間なんだろう』と圧倒されてしまいましたね。
前半は、歌麿の美人画が完成していく経緯を見られて、その後に写楽の飛び抜けた世界観を見られて、次々に舞い込む傑作に時間を忘れるほどでした。
そして、大きく成長していった葛飾北斎が、染み渡るような青い波の絵を完成させて、一気に波の絵が多く出てきた時は、思わず『おぉぉ』と声が出るほどでしたね。
柳楽優さんのとがった演じ方も良かったのですが、やはり田中泯さんのほうが『これぞ北斎!』という感じがしましね。シワが多くて、演技にも味がありました。
特に、突風により、女性の着物がはだけたり物が飛んでいったりする光景を見て『これは描きたい瞬間だ』と宝物を見つけたかのように喜ぶ表情は、さすがベテラン俳優と思ってしまいました。
ラストシーンでは、仲間の死を嘆き悲しみ『生首の図』を完成させますが、なんという恐ろしい絵であり、衝撃的な絵なのだろうかと圧倒されました。
邦画は、これからも日本の代表的な文化人や武士たちを題材にした映画を作っていって欲しいものですね。